2011年09月15日

人為的な放射能拡散

国の放射能拡散に加担する自治体と企業

 原発事故は福島原発の周辺に高濃度の放射性物質を降らせ、東東北と関東全域に大量の放射性物質をばら撒いた。今、多くの国民が日本の未来と子供たちの健康に不安を感じている。

 国民の健康を守り日本経済を立て直すためには、ばら撒かれた放射性物質を集めて濃縮し、封じ込めて拡散を防ぐことしかない。しかし現実は違っている。国と自治体は人為的に放射能に汚染された汚染瓦礫や汚染汚泥を全国で焼却して大気を汚し、山林に埋めて森を汚し、埋立をして海を汚し、肥料にして農地を汚し、宅地と公園とコンクリにして住環境を汚し、日本全国に汚染を広げている。

 多くの国民はこの事実さえも知らず、知っている人も反対をしない。戦時中と同じように、日本人は国からの指示に対して思考停止してしまうのだろうか。もしそうだとしても、今それを変えなければ私たちは大切な子供たちさえ守れない。


国は保管施設建設を怠り、自治体と企業に汚染を押し付けてばら撒かせる

 国がいつまでも放射性物質の長期保管施設建設の責務を怠り、遮蔽施設も仮処分場もすべてを各自治体に押し付けている。1kg当たり10万ベクレル超の汚染汚泥は遮蔽施設内で保管し、8千ベクレル超は処分場での仮置きとしていた。そして8千ベクレル以下なら、さまざまな方法で人為的に環境にばら撒くことを認めていた。しかしその8千ベクレルが10万ベクレルに変わるので、今後は汚染が10倍以上になる。

 自治体で置く場所が不足してきたことを表向きの理由にして、国は自治体のことを考慮しているふりをする。でも実際は国が保管施設の建設を怠っていることこそが本当の理由である。多くの自治体は地域住民を軽視して国の指導に従う。自治体は国の出先機関ではない。国の指示に従うだけの自治体など、存在意義もない。地方自治体の知事と市長は気づいてほしい。地域住民の生命と健康を犠牲にしてまで国に従わなければならないことなど、どこにもない。国が自治体に押し付けたからといって、自治体が放射性物質を拡散して住民に被害を押し付けるなどあってはならないことだ。


放射能汚染を人為的に拡散する国

 以下に示すように、国の各省庁が担当分野で人為的な放射能拡散に寄与している。環境省は環境を汚染し、農林水産省は農地と農作物を汚染し、国土交通省は住環境を汚染し、文部科学省は子供を被曝から守らない。世界中でこんな国が日本の他にあるだろうか。自然環境と国民の健康を犠牲にして、農業も漁業も観光産業も衰退させ、日本経済を潰す愚策である。

 国(環境省)は1kg当たり8千ベクレル以下を山林や海に埋立としていた。しかし8月末に埋立基準を10万ベクレルに大幅に引き上げる方針を決めた。自然豊かな山林と海に恵まれている日本なのに、これではますます日本中の海と山林の汚染は進み、海の幸と山を幸も汚して、食への不安はさらに高まるだろう。

 国(農林水産省)は汚染された地域の農地には1000ベクレル以下、全国の一般農地に200ベクレル以下の汚染汚泥は肥料として流通することを認めた。1000ベクレルの理由は汚染が高い地域の「放射性セシウム濃度を上昇させない」、200ベクレルの理由は「事故前の農地土壌の放射性セシウムの濃度範囲」としているが実際は事故前の日本のほとんどの農地は10ベクレル以下だ。しかも肥料業者がこの基準に違反しても自主管理で罰則なしだ。

 農水省 肥料に利用する汚染汚泥
http://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_hiryo/caesium/pdf/image.pdf

 汚染地域に高汚染肥料を使えば農地の汚染濃度はなかなか下がらなくなる。さらに200ベクレル汚染肥料は全国に流通する。10ベクレル以下の農地で半減期30年の放射性セシウム肥料を毎年使えば、安全な地域の農地は年々汚染濃度が高まる。しかも放射性セシウムだけで判断しているから、骨に蓄積し骨肉腫を起こすストロンチウムなどは未測定。他にどんな放射性物質が入っていても国は責任をとらない。

 国(国土交通省)は100ベクレル以下をセメント、宅地造成、公園で使うように指導している。子供たちが遊ぶ公園も、国民が生活を営む宅地を意図的に放射能汚染させるのだ。なぜ街を故意に汚すのか。放射性物質を埋めたセシウム公園で子供を遊ばせたいと思うだろうか。だれが放射性物質入りのセメントで作られたセシウムマンションに住みたいと思うのか。

 政府からセメント協会への要請文
http://www.jcassoc.or.jp/cement/4pdf/110728.pdf

 横浜市セシウム埋立
http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/kisha/h23/images/110909-1.pdf

 国(文部科学省)は、せっかく除染した校庭の汚染表土さえも自治体まかせにしている。


汚れた大地をきれいにして汚染汚泥が生まれた

 汚染瓦礫、汚染汚泥、汚染焼却灰といった廃棄物の処分には全国の自治体が頭を悩ませている。汚染汚泥はたまる一方だ。そしてやがて、国に従順な自治体は住民を無視して、国に従って地元の汚染拡大に手を染める。

 国と自治体は何も分かっていない。彼らは何をおびえているのだ。愛する日本を守りたくないのか。汚染汚泥は『風の谷のナウシカ』での『腐海』なのだ。ナウシカなら「汚染汚泥は毒を出すけど実は人間が汚した世界をきれいにしている。汚染汚泥は大地の毒を取り込んでくれた」と言うだろう。

 原発が全国に放射性物質をばら撒いた。その放射能で汚された大地を雨水が洗い流してくれる。大地をきれいにして雨水、下水を通して処理場に集まったのが汚染汚泥だ。人が汚した大地をきれいにして汚染汚泥が生まれたのだ。人間たち、動物たち、すべての生き物が少しでも安全に暮らせるようにと、自然の力が除染してくれた。

 それなのに、国と、その国に従順なだけの自治体はせっかく集まった汚染物質を意図的に拡散する。焼却し、山林などに埋め、公園や宅地に使い、肥料にして農地に撒き、コンクリートにして街中に撒く。庭掃除で集めたゴミの処理に困って、ゴミをまた庭に撒くことは愚か者のやることだが、今の日本はそれと同じことをしている。しかも撒いている物はただのゴミではない。原発事故を1次災害とすると、今、起きていることは人為的かつ意図的に行われている2次災害である。


解決策は放射性物質の拡散防止と封じ込め

 解決策は放射性物質の拡散防止と封じ込めだけだ。汚染汚泥や汚染瓦礫をできるだけ放射性物質を濃縮して、安全な施設に長期保管する。その施設は国の責任で早急に準備する。それこそが、国民の健康被害を防ぎ、日本経済を立て直す道筋である。事故から6カ月も過ぎて放射性物質の長期保管施設の建設に未着手なのは明らかに国の怠慢だ。

 保管場所は例えば原発敷地内かもしれない。いずれにしても放射性物質を閉じ込める巨大な長期保管施設を地下などに建設し、これから何百年も国家の責任で安全に保管することが必要だ。それができるまでは自治体と企業は国の拡散に一切加担してはいけない。そして私たちは、自治体と企業が汚染を拡散することを許してはいけない。人為的に祖国を汚すという愚かな行為はもう終わりにしよう。


国の放射能拡散に自治体と企業は従うな

 国は自分の怠慢を棚に上げて、自治体と企業に不当な圧力をかけている。例えば国はセメント業界に汚染汚泥を安定的に受入れてセメント原料に利用することを要請した。セメント協会はそれを承諾した。

 セメント協会HPで『放射性物質が検出された下水汚泥のセメント原料の利用について皆様のご理解を』としている。何が『ご理解を』だ。企業が最も重視すべきは顧客であり、国ではない。セメント業界の顧客は建設業界と不動産業界であり、さらにその顧客である消費者だ。建設業界の新築マンションの売行きに大きな影響を与え、国民が居住空間で床、壁、天井から被ばくする大問題である。各業界は顧客重視を前面に、国の不当な圧力を断固拒否すべきだ。

 セメント協会 放射性物質のセメント利用
http://www.jcassoc.or.jp/cement/1jpn/110728.html

 自治体も同様である。国に自治体が従い、自治体に住民が従うだけでは、あまりにも時代遅れだ。そんなやり方ではこの国家的な危機を乗り越えることはできない。国は自治体の支配者ではない。県知事市長は県民市民の支配者ではない。県民市民のために県知事市長がいて、自治体のために国があるという当たり前のことが忘れられている。これからの時代は、国に従順なだけの自治体には住民を守れない。全国の自治体と企業がこのまま国からの上意下達で行動したら危機を乗り切るどころか、逆に深刻さを増してしまう。日本全国で本格化がすすむ放射能拡散は人災だ。

 暫定基準でも不安だが基準を超えても方法がある。基準は濃度だから、高濃度の汚染汚泥と汚染灰も他と混ぜて薄めれば利用できる。混ぜて薄めることで、もっとたくさん放射能物質を日本中にばら撒いている。これは基準の抜け道を使った悪行だ。

 放射能保管施設の建設を意図的に怠る国が、自分たちの責任を軽くみせるために、自治体と企業に「焼却しろ。地元に埋めろ。公園と宅地に撒け。肥料とコンクリに使え」ということをなかば強制的に要請する。だからといって国民を二の次にしてそれに従う企業と自治体の頭は空っぽだ。良心は傷まないのか。自治体と企業の顧客はいったい誰なのか考えればいい。分かったら自治体と企業は今すぐに国の要請を拒否しよう。

 国の顧客は自治体であり、そして国民である。自治体の顧客は地域住民である。そして企業の顧客も結局は国民である。地域住民の声、全国のパパママの切実な声で時代遅れの全国の自治体と、時代遅れの企業を目覚めさせよう。目覚めた自治体と企業は国を変える力になる。自治体と企業は、顧客の声に耳を傾けて、いっしょに子供たちを守ろう。自らの責務を果たさず放射能拡散という愚策を進める国に、今こそ全国の自治体と企業は反旗をひるがえす時だ。

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この記事は『原発と放射線 第3版』に掲載しました。ぜひ電子書籍もお読みください。無料です。
http://www.nakayama-lab.com/essay/atm.html
posted by 中山幹夫 | 人為的放射能拡散